| 20250730 |


 つづき。太陽の精は、向かい側に座って尋ねた。わたしは言った。「わたしの傷ついた過去を全部書物にしたい。端から全部書き出して、年表みたいに、巻物にしたい。それを山積みにしたい」。そうしたらあなたはどうなるの。「そしたら、それをまとめてどこかに置いて、わたしはその歴史から自由になれる。忘れることができる」。それなら、もうあるわよ。あそこに。精が指さすと、椅子の間の左から奥に伸びる広い通路の片隅に、ぽつんと書物の束が重ねてあった。何もない、さらさらした材質のがらんとした空間に、そこだけ異質に、ごみみたいな感じで端に寄せてある。ドス黒い塊。「あ、これか。ほんとだ」。もう出来上がってる。読みたくもない。触りたくもない。ぜんぶぜーんぶここにあるから、ここに置いたままにしてあるから、あなたは任せて、忘れていい。からっぽになっていい。身軽になっていい。ただ、お茶が美味しいのを、お菓子があって嬉しいのを、味わっていい。それでも罪悪感があって、悔しい気持ちがあるんだね。新しく書き足したいなら、書き足そうね。繰り返し、傷つけられてズタボロにされて血まみれにされた怒りを、思い出すんだね。こわかったね。くやしかったね。誰のせいかもわからなくて、どうしたらいいのかも分からなかったね。あなたを守るものがなかったから。守ってくれる存在を感じられなかったから。「今なお分からない」。でも、この場所は不変だよ。あなたの神殿は傷つけられることはない。ここは損なわれない。ここであなたは祝福されている。見えない天からの降り注ぐ光は、みんなあなたの味方をしているよ。「何もビジョンが描けない。何も未来に欲しいものが見当たらない。わたしを傷つけようとする力を打ち破ることができる方法が考えられない」。大丈夫なんだよ。怒りで相手を打ち壊すことが、あなたの本分なんじゃないんだよ。あなたは、その間、強い風雪と嵐の間、乱れくる木っ葉に対して、神殿というかまくらに収まって、心を穏やかにしたまま、その一時をやり過ごすんだよ。嵐の風ひとすじも、かまくらの中に入れる必要がない。そこで、ふりそそぐ力に守られたまま、リラックスして、時が過ぎるのを待てばいい。それが、あなたの防御であり攻撃の形。あなたのハイトーンを揺らがせない。それで十分あなたは、この黒い書物の来歴に勝ってるんだよ。年表は、感情の名前。ここに連なってるのは、生まれた感情の名前がつらつらと延々と書かれてある。必要がなくなった時、そのときは供養してあげよう。お庭の、一番気持ちの良い場所で、炎で清めて、ダイヤモンドの粉にして、風に飛ばしてあげよう。神殿へようこそ。ここはあなたの心を祀る場所。あなたはわたし。わたしはあなた。この椅子に座ったら、全部が愛おしいでしょう。全部が美しいでしょう。暖かくて、気持ちよくて、いつでも空気が澄んでいる。